徳島駅を出発して、室戸岬を経由し、高知駅まで旅した様子を写真付きで紹介します。旅のルートは、国道55号線に沿って四国の“右下”エリアを公共交通機関で巡るコースです。

国土地理院の地図を加工して作成
エリア内の普通列車・バスが3日間乗り放題の「徳島・室戸・高知55フリーきっぷ」を使って移動しました。

徳島駅から海沿いを南下するローカル線「JR牟岐線」に乗り、終点の阿波海南駅まで移動。阿佐海岸鉄道が運行する世界初の乗り物「DMV(デュアル・モード・ビークル)」に乗り換えます。これは線路と道路両方を走れる非常に珍しい車両です。
その後は、高知東部交通の路線バスで室戸岬を経由し、奈半利駅まで移動。土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」で高知駅へ向かいました。途中で、廃校水族館や室戸岬周辺の観光も楽しんでいます。
なお、今回の室戸経由はかなり遠回りのルートです。徳島から高知へ早く行きたい場合は以下のルートがおすすめ…というか定番です。
高速バス利用:徳島と高知を結ぶ直通の高速バスが運行されています。公共交通機関で移動する人の多くはバス利用だと思います。
鉄道利用:徳島線の「特急剣山」で阿波池田駅へ行き、土讃線の「特急南風」に乗り換えるルートが最短です。「特急剣山」は本数が少ないので、時間帯によっては普通列車で阿波池田駅へ向かうことになります。普通列車の場合は結構時間が掛かります。
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この記事はシリーズのパート1として、徳島駅出発までを取り上げます。「特急うずしお」の珍しい車両や、JR四国特有の座席配置についても触れます。
早朝の徳島駅へ
大阪から高速バスに乗り、淡路島を通って徳島に到着しました。駅から徒歩10分ほどの新町川近くのホテルに宿泊しています。
余談ですが、500円で高速バスに乗れました。大阪・関西万博の関西パビリオンで以前もらった「徳島県への招待状」を使ったからです。
翌朝、5時過ぎに宿を出発。フロントが開いていないのでキーを箱に入れてから、徳島駅まで歩きます。
今はお盆前ですが、朝は結構涼しいです。夏至が過ぎ、昼の時間が短くなり始めたとはいえ、まだ5時過ぎで明るいですね。
道沿いには数日後に開催される、阿波おどりの提灯飾りがずらりと並び、賑やかな雰囲気でした。

徳島駅へ到着。駅ビルのサイズ感は四国トップクラスです。


朝の5時台ですが改札横の窓口には駅員さんがいました。さすが県庁所在地の代表駅です。

無人駅は全国的に増え続けており、特にJR四国管内は無人駅の比率が高くなっています。また、有人駅であっても一部時間帯は駅員がいない駅もあります。
首都圏でも早朝は駅員不在(またはインターホン対応のみ)の駅がある時代なので、5時台から駅員がいるのはありがたいことかもしれません。
切符は前日に購入済み。駅に着くのがギリギリになってもいいよう準備しています。
ところで、徳島駅は四国の県庁所在地の代表駅で唯一、自動改札機が導入されていない駅です。以前は松山駅にもなかったのですが、去年(2024年)9月の新駅舎開業に合わせて使用が開始されました。
さらに、今年(2025年)3月に鳥取駅へ自動改札機が導入されたことで、全国的にも自動改札機がない代表駅は徳島駅のみになったそうです。
有人改札も風情があるので好きですけどね。駅員さんがきっぷにスタンプ(入鋏印)を押してくれるのもいい。自動改札だと穴が開くだけですし。
「うずしお」のレア車両
ホームに入ると、気動車(ディーゼル車)特有の排ガスの香りが漂っています。これを「香ばしい」と感じるか「くさい」と感じるかは人によると思いますが、個人的には旅情を感じられるので嫌いではありません。
とはいえ、体に悪そうなので、わざわざ排気口の近くへ嗅ぎに行くことはないですけどね。
ご存じの方も多いと思いますが、徳島県は「電車」が走ってない唯一の都道府県です。鉄道路線はあるものの電化されておらず、走っているのはディーゼルエンジンで動く気動車のみ。電気ではなく軽油を使って走っています。
改札を入って正面の2番のりばには、高松行きの「特急うずしお」が停車中。5時台なのに意外とお客さんが乗っているようです。
筆者のように駅の近くに宿泊していたならまだしも、自宅から駅に来ているとすれば、かなりの早起きですね。もっとも、明るくなるのが早い時期なので、感覚としてはそこまで早朝という印象は受けませんが。

「うずしお」のこの便で使われている車両は、数が少ない2600系でした。元々は土讃線の特急のために製造された車両で、空気ばねで車体を傾斜させる方式を採用しています。
空気ばねを使った車体傾斜装置は、従来の振り子式より構造が単純でメンテがしやすく、コスト削減につながります。
しかし、実際に走らせてみると、カーブが連続する土讃線では空気の消費量に対して供給(空気タンクの容量やコンプレッサーの生成能力)が追いつかなくなることが判明。
結局、土讃線用には従来の振り子式を採用した2700系が製造され、2600系はカーブが比較的少ない高徳線中心の運用になりました。量産化が見送られた2600系は、計4両(2両×2編成)しか製造されていないそうです。
なお、2600系はこの旅の数カ月後に後にラッピングされ全編成がアンパンマン列車に。このカラーは見られなくなりました。
奥のホームへ移動
跨線橋を渡って奥の島式ホームに移動します。3番のりばに高松行き、4番のりばに阿波海南行きの普通列車が止まっています。

これから乗る阿波海南行きの車両は、JR四国のコーポレートカラーである水色の帯をまとった1000形気動車です。

ちなみに1000形と同じ顔で緑色の車両は1200形。1000形を改造し、後で導入された1500形と併結できるようにした車両です。徳島地区ではよく目にしますが、1500形がいない高知地区では未改造の1000形しか見られません(※2025年現在)
参考⇩(左から1200形、1000形、キハ40系、1500形)

2025年10月、徳島駅出発直後の車内より撮影
1000形はJR四国発足後の早い時期に導入された車両で、国鉄型のキハ40系よりは新しいものの、2025年時点で車齢30年を超える車両が大半です。今回乗った「1003」は1990年製造。初期の車両はそろそろ置き換えの対象になると噂されています。
JR四国特有の座席配置
1000形の座席は、固定式のクロスシートとロングシートの組み合わせ(セミクロスシート)ですが、配置は独特。クロスシートとロングシートが点対称に配置された「千鳥配置」と呼ばれるもので、クロスシートに座っているとロングシートの人に横から見られるスタイルです。


2023年12月、土讃線で撮影


※イメージ図です。正確な図面ではありません。
この配置は通路を広くするためだと考えられます。JR四国では「後乗り・前降り」のワンマン運用が多いので車内の移動しやすさを確保することは大切です。
通常のクロスシート配置(2列+2列)だと、どうしても通路は狭くなってしまいます。
通路を広くすることで、混雑する通勤・通学時間帯に詰め込みができる一方、クロスシートも付いているので乗車時間が長い人も快適に過ごせます。ロングとクロスの「良いとこ取り」をしたということでしょうね。
地方ローカル線にオールロングシートの新車を入れる会社もある中で、JR四国の配慮と優しさを感じられます。実際、JR四国の自社開発車両には、オールロングシート車はありません(※2025年12月現在)
現在運用中の車両では、国鉄の置き土産であるキハ32形、キハ54形のみがオールロングシートです⇩

2024年9月、伊予市駅にて撮影
ちなみに、これら国鉄型の車両は引退が近いと言われています。
独特の座席配置は気動車限定ではなく、電車の7000系と7200系にも採用されています。中でも7200系は、種車の国鉄121系が採用していた2列+2列のクロスシートを、わざわざ改造してこの配置に変更しているのが特徴的です。
他社が大掛かりな改造をする場合、クロスシートをすべて撤去してロングシートにすることが多いので、JR四国の独自性が出ていると思います。
1500形もこの配置に
ところで、1000形の後に作られた1500形は当初、2列+2列の転換クロスシートでした。
しかし、2013年に導入された7次車以降は「2列の転換クロスシート+ロングシート」の千鳥配置という、1000形に近いに配置に変更されました。
やはり2列+2列では、通路が狭くて都合が悪かったのでしょうか?
だとしても、2列+1列の転換クロスシートにしなかったのは不思議です。関空快速や姫新線の車両で実績のある配置なので、技術的な問題はないはず。
コストのかかる転換クロスシートを採用しておきながら、中途半端に半分をロングシートにした理由が気になります。単なるコスト削減が目的なら「1000形同様の千鳥配置」または「オールロングシート」でよかったはず。
コスト削減と乗客の快適性との間で綱引きが行われ、折衷案を選んだということなのでしょうかね……。
あるいは着席定員が減るのを嫌ったのかも? ただ、1列の転換クロスシートとロングシートで席数にそこまで大きな差はないと思います。そもそも、朝夕ラッシュ時の詰め込みが前提の設計なら、席が多少減っても問題ない気もしますが、そこは譲れないところだったのでしょうか。
この配置は、JR四国の車両とそこからの派生車(一畑電車7000系)以外では、ほとんど目にしないものです。JR四国はこの配置に特別なこだわりを持っているのかもしれません。
(四国以外では、JR東日本701系とその派生車の一部編成や、JR九州のキハ220形がこの配置らしい。探せば他にもいるかも。水島臨海鉄道MRT300形も千鳥配置ですが、2ドア車なので少し雰囲気が違いました)
新車にも継承されそう
そろそろ普通列車用の新型ハイブリッド気動車が導入される予定ですが、オールロングシートでなかったとしても、この独特の座席配置になりそうです。
オールロングシートよりは遥かにマシなので贅沢は言えませんが、ベストであるかは疑問です。固定式でもいいので2列+1列のクロスシートにしてほしいです。
通路幅は確保できますし、乗降のしやすさや乗車定員(詰め込み能力)の面でも問題はないはず。横からの視線を感じることもありません。
また、一人掛けの席を選べば隣に人が座らないのでリラックスして移動できます。見方によっては2列+2列より優れた配置と言えるのではないでしょうか。
特殊な席
さて、今回はトイレ設置工事の結果生まれた狭いクロスシートに座りました。

1000形のクロスシートは基本、向かい合わせのボックス配置ですが、ここはトイレスペースの関係で本来あった席が削られているため、他の乗客と向かい合わせになることがありません。

気まずい雰囲気にならずに済みますね。とはいえ、通路を挟んだロングシートからの視線は避けられませんが……。
あと、トイレの扉前の席はロングシートではなく一人掛けのクロスシートになっています。一人旅の時にはおすすめです。

おそらく、トイレに出入りする人が視線を感じないよう配慮して席の向きを変えたのだと思います。席がトイレを向いていると、座っている人も視線のやり場に困りますし。
始発を選んだ理由
今回乗車した牟岐線の普通列車は5:45発の始発便です。

わざわざ早起きして始発に乗ったのは、途中で観光しつつも、その日の夕方には高知に着きたかったからです。
室戸経由のルートは全体的に列車やバスの本数が少ないため、朝ゆっくり出て観光しながら移動すると、高知到着が夜遅くになるか、途中で宿泊する必要が出てきます。
徳島から阿波海南まで一本で行く列車は、5:45発の次が9:30発です。
徳島6:46発の牟岐行きに乗り、終点の牟岐駅でバスに乗り換えるルートもありますが、このバスは「55フリーきっぷ」の対象外で別途支払いが必要になります。
徳島8:24発の阿南行きに乗る場合、終点の阿南駅からのバスは「55フリーきっぷ」を含むJRの乗車券で利用可能ですが、阿波海南に着くのは11:08になります。
一方、始発の徳島5:45発に乗ると8:03に阿波海南に到着できます。つまり約3時間の差が生じます。この3時間を観光に回すことで夕方に到着することが可能になるのです。
(※上記時刻は2025年3月15日改正のダイヤです)
徳島から室戸経由で高知へ移動する際の列車・バスの時刻は、高知東部交通の公式サイトで乗り換え案内表としてまとめられています。
外部リンク:お遍路乗り換え案内 – 高知東部交通株式会社 | 公式ホームページ
お遍路さん向けのものですが、「55フリーきっぷ」で移動する人にも便利です。複数の交通機関の時刻が一覧表になっており、大変わかりやすかったです。自分でそれぞれの交通機関の時刻を調べ、つなぎ合わせるのは大変なので助かりました。
次回に続きます……
