この記事は2023年春の旅行記part2です。
「かもめネットきっぷ」を使い、佐賀県の鳥栖駅から特急と新幹線を乗り継いで長崎駅まで移動した記録と、これからの新幹線建設について考えたことを書きました。
前回:「青春18きっぷ」で山科(京都府)から鳥栖(佐賀県)へ観光しながら行く
鳥栖駅~武雄温泉駅
朝です。今日は早起きして6:54発の「リレーかもめ3号」に乗ります。
ゆっくり寝たかったのですが、7時台以降の便は空席が少なく混雑が予想されます。落ち着いて移動したいので空いている早い便を予約しました。
泊まっているサンホテル鳥栖は駅徒歩1分の好立地。部屋から駅舎がよく見えます。
ちなみに朝食バイキングの開始が6:30でした。急いで食べないと6:54発の列車に間に合いません。
なんとか発車5分前に駅に到着。
地下通路を通ってホームへ急ぎます。
行き先案内には、西九州新幹線開業を機に改称した江北(旧肥前山口)駅の名前も出ていました。
すぐに特急「リレーかもめ」がやってきます。車両は787系。
JR九州の車両はどれも凝ったデザインをしています。内装も独特。荷物棚は飛行機みたいにフタが閉じられる仕組みになっています。
車窓はのどかな田園風景ですが、なんか本州の景色とは感じが違うんですよね……。どことなく温暖な感じがする。
江北までの長崎本線は線形が良く、結構スピードが出ていました。最高で130km/h出せるそうです。この便の表定速度を計算すると約82km/hでした。
江北~武雄温泉は佐世保線に入ります。この区間は最高速度が95km/hに制限されるほか一部単線です。今回は列車交換のため途中駅でしばらく停車しました。
江北~武雄温泉の表定速度は約54km/h。遅いです。なお、一本前の「リレーかもめ1号」の場合は約82km/hです。速いのは列車交換の停車がないからでしょうね。3号が15分掛けて走る区間を、1号はたったの10分で走っています。
リレーかもめと割引きっぷ
今回乗車する特急「リレーかもめ」と新幹線「かもめ」が走るルートについて少し説明します。
鉄道ファンや地元の方には説明不要だと思いますが、2022年9月に西九州新幹線の武雄温泉~長崎が開業しました。ただしこれは部分開業です。
博多から長崎まで一本の新幹線でつながるのが理想ですが、複雑な経緯(後述)があり佐賀県内の区間(新鳥栖~武雄温泉)は未着工。2023年11月現在もルートさえ決まっていません。
よって現状、博多~長崎を移動する場合には在来線特急(博多~武雄温泉)と新幹線(武雄温泉~長崎)を乗り継ぐことになります。
特急「リレーかもめ」は新幹線「かもめ」と武雄温泉駅で接続。下り「リレーかもめ」の実際の行き先は武雄温泉ですが長崎行と表示され、博多~長崎を走る一本の列車のように扱われます。
また、この列車にはネット購入限定のお得な割引きっぷが用意されています。
博多~長崎は指定席利用の通常価格が6,050円ですが、
7日前までの予約で利用できる「私たちも、かもめ。早特7」は3,200円、
3日前までの予約で利用できる「かもめネット早特3」は3,600円、
発車6分前までOKの「かもめネットきっぷ」は4,200円です。
※2023年現在の価格
なお鳥栖~長崎には7日前、3日前の早得が設定されていないようです。いつ買っても「かもめネットきっぷ」のみで4,200円。指定席の通常価格は5,540円なので安くなってはいます。
ただ、博多から乗る場合に比べ距離が短いのに価格が同じなのは不思議ですね。さらに、早得を利用する場合は距離が長い博多~長崎のほうが安くなるという逆転現象が発生します。
7日前、3日前の予約で鳥栖~長崎を乗るなら、博多からの早得を買って乗ったほうがお得のようです。
「バリ得こだま」みたいな特殊なきっぷ(厳密には旅行商品)の場合は、表示されている全区間を乗らないとダメですが、早得きっぷは途中駅から乗ってもいいらしい。JR九州のFAQにも記載されています。
・外部リンク:「九州ネット早特3」「九州ネット早特7」などの早特きっぷを予約しました。途中駅から乗車したり、途中駅で下車したりできますか。
途中から乗るのを認めているのなら、素直に鳥栖発の早得も出せばいいと思うのですが、なぜ設定がないのでしょうかね?
なお早得は席数限定です。また早得7には変更不可などの条件があるので注意。
武雄温泉駅で対面乗り換え
鳥栖駅を出て46分で武雄温泉駅に到着。同じホームの反対側に停まっている西九州新幹線「かもめ3号」に乗り換えます。
在来線と新幹線が改札なし、階段なしで乗り換えできるのはとても便利! 素晴らしい! 特急到着からわずか3分で新幹線が発車できるのは、対面乗り換え方式のおかげです。
敦賀駅は乗り換えが大変
いっぽう、来年(2024年)春に開業する北陸新幹線の敦賀駅は、どうしてあのような不便な構造になったんでしょうね……。3階が新幹線ホーム、2階が乗り換え改札、1階が在来線特急ホームだそうです。
写真や映像も公開されていますが、かなり広大な駅舎でした。上下移動だけでなく改札階の横移動も長いので、荷物が多い人や足腰が悪い人にとってはかなりの負担が予想されます。
当然乗り換え時間は長くなり、その結果別の問題も生じます。現在、金沢~大阪は在来線の特急「サンダーバード」で結ばれていますが、北陸新幹線敦賀開業後は、必ず敦賀で乗り換えが生じます。
金沢~大阪は現行より所要時間が短縮されますが、福井~大阪は所要時間がほぼ変わらず、便によっては所要時間が増えるかもしれないと噂されています。
新幹線による速達効果が、乗り換え時間のせいで相殺されてしまうということです。地形の問題などがあるのかもしれませんが、もう少し乗り換えしやすい構造にできなかったのか。
改札なしが無理だとしても、新潟駅のような改札ありの対面乗り換えという方式が考えられます。
あるいは地形的な制約で対面乗り換えが無理なら、新幹線ホームか在来線特急ホームに改札を設け、上下移動メインで乗り換えできるスタイルにしてほしかった。
現状のレイアウトでは2階の横移動が長いので在来線特急ホームを真下に作った意味がないです。
これから北陸新幹線の新大阪延伸までずっと敦賀乗り換えが必要になるわけで、利便性の低下は長期間に及びます。
新大阪までの大まかなルートは決まっているものの未着工。開業年の見通しも立っていません。京都市街地を大深度地下で通すようですが、技術的にも政治的にも費用的にも実現可能なのか怪しいです。
東京外環道の大深度地下トンネルは地盤沈下によって工事が止まっていたし、残土や地下水の問題から京都府各地で新幹線建設反対の声が上がっています。世界的なインフレによる資材費の高騰や人手不足もあります。
金沢~敦賀は着工から12年で開通しますが、この期間で作れたのはルートのほとんどが山と田園地帯だったから。大都市である京都と大阪を通るルートを同じスピードで建設できるとは思えない。
仮に新大阪まで延伸開業できたとしても、20~30年後になりかねません。それまでの期間はずっと不便な乗り換えが必要ということになります。
佐賀県内のルートが決まっていない西九州新幹線もそうですが、整備新幹線は前途多難ですね。
フリーゲージトレインの失敗
そもそもフリーゲージトレイン(軌間可変電車)を実用化できなかったことが、すべての元凶と言えそうです。西九州新幹線「かもめ」は元々、新幹線と在来線のどちらも走れる車両を使い、佐賀県内は在来線を走る予定でした。
博多~新鳥栖は九州新幹線、新鳥栖~武雄温泉は在来線(長崎本線・佐世保線)、武雄温泉~長崎は西九州新幹線を走ることで博多と長崎を結ぶ計画だったのです。
運用コストや最高速度の問題でフリーゲージトレインが頓挫した結果、面倒なことになりました。佐賀県内もフル規格の新幹線を建設せざるを得なくなったのです。佐賀県は反対していますけどね。
北陸新幹線も新大阪延伸までの間、敦賀から在来線に直通して大阪まで行く予定でした。
以下は筆者の妄想ですが、もしフリーゲージトレインが実用化されていれば、敦賀以西の北陸新幹線建設は凍結されていたかもしれません。
金沢~大阪を結ぶ特急「サンダーバード」は敦賀以西で湖西線(近江塩津~山科)を走ります。この路線は比較的建設時期が新しい高規格路線です。ほぼ高架化されており在来線ではあるものの全線を通して高速走行が可能です。
さらに踏切がなくカーブも緩いので、信号の改良やホームドアの設置を行えば160km/h運転も不可能ではないと言われています。
また湖西線を出た後の山科~大阪は、複々線化されていて線形も良好な東海道本線を走ります。金沢~大阪の特急は元々在来線の中でも速度を出しやすい区間を走っているのです。
260km/h出せる北陸新幹線のほうが速いとはいえ、ルートは在来線より遠回りということもあり、劇的な時間短縮効果は見込めません。
建設に必要な莫大な資金に対して、得られる見返りはそこまで大きくないと言えるでしょう。コスパが悪いんですよね。
フリーゲージトレインが実用化されていれば、下手に新幹線を建設せず敦賀以南は在来線を走らせたほうがコストの面で圧倒的に優れていた。
もし湖西線に160km/h化工事や、より強力な強風対策工事(シェルター設置など)を行う場合も、必要なコストは新幹線の新規建設より安価だと考えられます。
どうせ作るなら四国
北陸の人に怒られそうですが、北陸新幹線は建設を凍結し、その資金を四国新幹線に回してほしい。
フリーゲージトレインはダメでしたが、敦賀駅を改良、あるいは少し先に駅を新設することで、新幹線と在来線の対面乗り換えができるようにして、大阪までは在来線特急で我慢してもらえないものか。
「サンダーバード」はすでに在来線最速なので、新幹線を建設しても費用対効果は微妙なところです。
いっぽう、四国は予讃線も土讃線も単線かつ線形が悪く、振り子式車両を使ってもこれ以上の高速化は無理です。
特に土讃線は急勾配・急曲線区間が多すぎるので、部分的な線形改良では十分な速達効果が見込めません。下手に在来線を改良するより、真っ直ぐな新幹線を作って山間部の区間は廃止したほうが余程コスパが良い。
四国の在来線特急は遅いので、新幹線を通すと劇的な時間短縮が可能です。現在のくねくねして遠回りの在来線に比べ距離も短くなるので、所要時間を1/3以下にすることも可能でしょう。
新幹線による新大阪直通が実現すれば、飛行機(松山・高知~伊丹)の客を奪えます。最速で1時間半以下、控えめに計算しても2時間以下で大阪と結ばれるので飛行機の利用者はほぼいなくなるでしょう。
2023年11月現在、松山~伊丹は1日11往復、高知~伊丹は6往復飛んでいますが、その客が鉄道に流れるのでかなりの増収になります。
対して北陸各県~伊丹は特急が速いため元々航空路線がなく、新幹線ができても客を奪えません。
というわけで、どうせ新幹線を作るなら四国新幹線のほうに予算を回してほしかった。
少なくとも、岡山~松山ルートは作る価値があると思います。四国の中では沿線人口が多く、松山城や道後温泉などの有名観光地もあり、一本で大阪とつながれば多くの利用者が見込めます。時間短縮効果も大きい。
将来的な人口減少や岡山県の反対という課題はありますが、なんとか実現してほしいです。
武雄温泉駅~長崎駅
余談が長くなってしまいました。話を戻しましょう。2023年春時点ではデビューから1年も経っていない真新しい新幹線車両に乗り込みます。
東海道・山陽新幹線のN700Sがベースですが、見た目の印象は全然違います。
東海道・山陽のは実用性最優先のビジネス用車両という感じですが、こっちは遊び心と高級感が両立していて素晴らしい。
シートの色もいいですねこれ。抹茶ケーキみたいな色ですね。美味しそうと思ってしまいましたよ。あと枕がモフモフで気持ちいい!
指定席は2-2配置でゆったりしているのも嬉しい。座席の背面は木目調で、テーブルは肘掛けに収納されています。
上の方を見るといつものN700S感がありますが、限られた枠の中でデザインを工夫しているのが分かって好感が持てます。
この空間にいるだけで楽しい。やっぱりJR九州の車両デザインは秀逸ですね。
温泉駅の話
いよいよ武雄温泉駅を出発です。「かもめ3号」は西九州新幹線内の全駅に停車するそうですよ。次は嬉野温泉駅。温泉駅が連続するのは面白い。
ちなみに来年(2024年)春開業の北陸新幹線でも温泉駅が連続します。加賀温泉駅の隣が芦原温泉駅です。在来線の駅としてすでに存在していますが、現在は隣接していません。
また余談になります。温泉を名乗る駅は全国にあるけど、意外と駅から温泉街が遠いことが多い。全部調べたわけではないですが、ひょっとしたら歩いて行ける所のほうが少ないかも?
武雄温泉は駅から徒歩約10分で行けるのでなかなか便利。隣の嬉野温泉駅は温泉街までバスで約13分です。
それと加賀温泉駅は特殊なんですよね。加賀温泉という名前の単一の温泉街が存在するわけではありません。別々の場所にある4つの温泉(粟津、片山津、山代、山中)をまとめて加賀温泉郷と呼んでいます。そこへのアクセス拠点だから加賀温泉駅。
加賀温泉駅から各温泉へのアクセスですが、粟津温泉は車で約20分、片山津温泉は車で約10分、山代温泉は車で約10分、山中温泉は車で約20分、バスで約30分です。
車で10分と書くと近そうですが、歩くと1時間以上は掛かるので結構距離があります。駅から歩いて行く人はいないでしょうね。
また、芦原温泉の最寄り駅はJR芦原温泉駅ではありません。第三セクター「えちぜん鉄道」の「あわら湯のまち駅」です。
えちぜん鉄道の駅から芦原温泉は徒歩でアクセスできますが、JRの方からはバスで約15分掛かります。ちなみにかつて両駅は国鉄線でつながっていました。
あと、今回取り上げた4つの温泉駅のうち、新幹線開業で新設された嬉野温泉駅を除くと、開業時は別の名前でした。
武雄温泉駅は武雄駅、加賀温泉駅は作見駅、芦原温泉駅は金津駅でした。どれも1970年代に改称されています。その頃に温泉ブームでもあったんでしょうかね?
あっという間に終点
さて、嬉野温泉駅を出て新大村駅停車直前の車窓↓です。大村湾が見えるような見えないような……。奥に見える山は対岸にあります。
新大村駅に停車。真新しいホーム。あまり人の気配はありません。
新大村を出ると10分も経たずに諫早に停車。諫早を出発後、トンネルを出て長崎市街地が見えてくるとすぐに終点です。
長崎駅に到着しました。
武雄温泉駅からの西九州新幹線乗車時間は31分。あっという間でした。路線距離は66.0km(実キロ)。
博多~長崎の所要時間は、乗り換え時間を入れても在来線特急のみの頃より30分程度短縮されているそうです。約2時間掛かっていたのが、1時間半になりました。
旧特急「かもめ」に振り子式車両が使われていたことからも分かるように、かつて走っていた長崎本線海沿い区間は線形が悪くスピードが出せませんでした。だから、70km足らずの短距離新幹線でも時間短縮効果が大きいんですね。
長崎から新大阪に直通するためには佐賀県内区間の建設は必須ですが、博多と長崎を結ぶという意味では現状でも意外と速くて便利だと思いました。対面乗り換えですし。
ちなみに、今度開業する北陸新幹線の金沢~敦賀は125km。西九州新幹線の約2倍の距離ですが、開業後の金沢~大阪の時間短縮効果は22分のみです。北陸本線の線形の良さが分かりますね。
車窓について
開業が新しい新幹線にはありがちですが、景色は見づらかったです。まずトンネルが多いので真っ暗の時間が長い。
屋外区間も山の中を走ることが多いので木々とコンクリートで固められた斜面しか見えなかったりします。
市街地付近では高い防音壁に視界が遮られます。一部透明の防音壁が使われている区間もありますが、大部分では景色を楽しめる感じではなかったです。
速達化と引き換えに車窓がつまらなくなるのは仕方ないか……。次長崎に行く時は長崎本線経由で有明海の風景を見てみたいなぁと思いました。
長崎駅で行き止まり
線路はここで途切れています。長崎駅の先は海。
今回の記事はここまで。次回は長崎観光について書きます。
次回はこちら↓