徳島~室戸~高知を公共交通機関で巡る旅のパート3です。エリア内の鉄道、DMV、路線バスが乗り放題の「徳島・室戸・高知55フリーきっぷ」を使います。
前回は徳島駅から牟岐線に乗り、阿南駅まで進みました。

今回は阿南駅からさらに南下し、JR牟岐線のローカル色が濃い区間を進みます。JR四国の現状や地方の鉄道に関する個人的な考察を交えつつ、薬王寺のある日和佐駅を経て終点の阿波海南駅へ。ついにDMVと対面します。
なお、旅をしたのは2025年8月上旬です。

国土地理院の地図を加工して作成
阿南を出て山間部へ
阿波海南行き普通列車は、6:37に阿南駅を出発しました。田畑が中心の広々とした車窓風景は2駅先の阿波橘駅付近で終わり、牟岐線は山間部へ入っていきます。


この先は山と海に挟まれた狭い平地が中心となり、沿線人口も大きく減ります。
そのため、牟岐線の阿南より南の区間(阿南~牟岐~阿波海南)では列車本数が少なくなり、2時間ほど列車の運行がない時間帯もあります。
ただ、これでもJR四国は頑張って列車本数を維持している方だと思います。牟岐駅以北では、利用者が多い朝夕の時間帯に1時間未満の間隔で走らせていますし、阿南駅に近い区間ではさらに本数が増えます。
また、並走しているバスにJRの乗車券や定期券で乗れます。
そういうわけで、全国のローカル線の中では、まだ使い勝手が良い部類に入ると思います。ベストではないものの、公共交通機関としてギリギリ機能していると言えるでしょう。
とはいえ、日中の本数が少なすぎて通勤・通学以外には使いづらいので、本音を言えば、もう少し増便してほしいですね。
ちなみに、牟岐線の阿南以北の区間(徳島~阿南)は、日中でも30分おきに1本走るダイヤになっています。パターンダイヤ化され、本数もローカル線にしては多いほうなので好感が持てます。
ローカル線のダイヤと廃線
悲しいことに、全国を見ると、使いたくても使えないダイヤの路線も少なくありません。最も利用者が多いであろう朝夕時間帯もダイヤがスカスカだったり、3~4時間列車が来ないような路線も見られます。
山奥を走っていて利用者が極めて少ない路線なら仕方ないかもしれませんが、通学利用者がそれなりの数いるのに便数が絞られている路線もあります。減便で下校時間帯の列車がなくなり、生徒や学校関係者が困っているという事例も耳にします。
ちなみに県庁所在地を通っているのに、9時台の始発列車のあと12時台まで列車がない謎ダイヤの路線もあります。

2024年3月撮影
こういうダイヤは、「もう利用者を増やすつもりはありません。早く廃止させてください」という鉄道会社の意思表明にも見えますね。
JRの本州3社と九州は、完全民営化した以上、利益を追求しろという圧力が強いのはわかりますが、なんとかならないのでしょうか。
一方のJR四国はまだ半分国鉄みたいなものです。民営化したとはいえ、株式は間接的に国が保有しています。経営環境が厳しく、経営安定基金がなければ黒字を出すのも困難なので、上場し完全民営化したくてもできないようです。
皮肉にも、そのおかげで利益偏重の経営にならず、公共交通機関としての使命を全うできていると言えるかもしれません。
とはいえ、四国にも廃線の足音は近づいています。予土線や、予讃線の旧線(愛ある伊予灘線)のほか、今回乗車している牟岐線の「阿南~牟岐~阿波海南」も存廃議論の対象になっています。
牟岐線にPC枕木が少なく木の枕木ばかりなのは、廃線の可能性があるため無駄になる投資をしたくないからかもしれません。
寿命が長くメンテナンス頻度を減らせるPC枕木を使えば、長期的にはコスト削減ができるものの、短期的には単価が安い木の枕木を使ったほうが安上がりです。まあ、単純にまだ使えるから交換していないだけかもしれませんけどね。
また、今年(2025年)のダイヤ改正で、特急「むろと」が廃止されたのも若干不穏です。
早朝と深夜の1往復だけだったとはいえ、定期で特急が走る区間が廃線になることは稀ですし、再構築協議会(≒存廃議論)の対象にもなりません。「むろと」をなくすことで、廃線の地ならしを進めたのではないかと勘ぐってしまいます。

2010年3月撮影
民営化の問題点

2023年12月撮影
確かに、国鉄が民営化されたことで改善された部分は多いですが、最近ではデメリットも目立ってきています。民営化するにしても、もう少し良いやり方はなかったのでしょうかね……。
素人の考えですが、少なくとも採算が厳しい地方路線は上下分離方式にすべきだったと思います。インフラ部分(線路、土地、駅など)は国や自治体が保有・管理し、鉄道会社は列車の運行のみを行う方式です。
世界を見れば、現在も国が管理している鉄道は多いですし、民営化する場合も上下分離方式が一般的。インフラごと民間に丸投げした日本のやり方は、かなり特殊なようです。
その歪みは、今回旅しているJR四国やJR北海道など、条件の不利な地域に強く現れています。人口密度や地理的条件を考えれば、維持費が莫大なインフラを抱えた状態で、鉄道事業を黒字化するのは極めて困難です。
経営安定基金があるとはいえ、建前上は「民間企業」として、自力での利益確保を求めるのは、構造的にかなり無理があるのではないでしょうか。
一方で、完全民営化を果たし巨額の利益を上げている本州のJRですら、最近は減便やみどりの窓口の閉鎖などサービス低下が進み、廃線の議論も行われています。
そのうえ、コスト削減の弊害なのか、線路や車両のトラブルといった安全に関わる問題も散見されるようになりました。
結局、儲かっていようがいまいが、公共性の高い鉄道事業を民間企業の論理で行うことには、限界があると思います。民間企業には「株主利益の最大化」が求められる以上、不採算事業の縮小は避けられません。
さらに、鉄道事業よりも利益が出しやすい、不動産や流通などの「非鉄道事業」に注力しているJRも少なくありません。鉄道会社の看板を掲げていても、実質的には別の業種に変質してしまったようで寂しくなります。
ただ、これらすべての責任をJRだけに求めるのは酷でしょう。本来、国の役割であるインフラ維持まで民間に押し付けたツケが、ここに来て回ってきているように見えます。
完全民営化したJRは「利益の最大化を求める株主」と「公共性を求める国や自治体」の板挟みになり、難しい立場に置かれているのです。
もちろん、極端に利用者が少ない路線はバス転換したほうがマシな場合もあるでしょう。
しかし、国が鉄道政策の抜本的な見直しを行わず、JRが市場原理に従った経営を続けた場合、それなりに利用者が多い路線まで、なし崩し的に廃線が進んでしまいそうです。
最悪のケースを想定すると、将来的に、JRが運営するのは新幹線と大都市圏の路線のみになるかもしれません。それなりに利用者が多い地方の幹線であっても、赤字が出ているという理由でJRが手を引くおそれがあります。
そうなった場合、地方自治体が多額の出費を行って残すか、廃線を受け入れるかの選択を迫られることになるでしょう。
繰り返しになりますが、インフラを抱えた状態で鉄道事業を黒字化するのは極めて困難です。維持費が莫大なので、よほど多くの収入を得ない限り黒字になりません。
高額な追加料金を徴収できる新幹線や、膨大な数の利用者がいる大都市圏の路線はあくまで例外です。
だから、世界的に鉄道は国営か上下分離方式になっているのです。
国鉄民営化から40年近くが経過しました。インフラの維持まで民間に背負わせる仕組みは、もう見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。
謎の長い停車
話を牟岐線の旅に戻しましょう。阿波海南行き普通列車は各駅に止まりながら、順調に進んでいきます。

由岐駅では列車行き違いがありました。ただ、反対列車は7:04に発車したのに、こちらの列車は7:12まで8分待ってから出たのが不思議でした。

臨時列車との行き違いのために設定された時間かと疑いましたが、臨時特急「やくおうじ」は走る時間帯が違いますし、普通列車の臨時便を8分間隔で続行させる必要があるような路線ではありません。
隣に臨時駅の田井ノ浜駅があるので、反対列車がそこに臨時停車したときのための、余分の時間を設けている可能性も考えましたが、そもそも7時台に臨時停車する便は設定されていませんでした。
回送や検測車でも通せるようになっているのでしょうか? 信号システムの関係で進めないとも思えません。3駅先にある交換可能駅の日和佐駅まで進んでも問題はなさそうですけどね。
遅延時に備えた時間調整だとしても、あえて拠点駅でないここでする必要がわかりません。謎は深まるばかり。
ちなみに去年(2024年3月改正)のダイヤでは、日和佐駅で長めの停車をして、特急「むろと」と普通列車の、合計2本と行き違いをしていたようです。
並行する高規格道路
さて、由岐駅を出ると次に止まるのは木岐駅です。「ゆき」「きき」と続くのはリズム感があってなんだか面白い。
このあたりはトンネルばかりです。牟岐線は海沿いに走っているものの、意外と海が見える場所は少ないですね。
木岐駅付近では車窓に立派な高架橋が見えます。これは、通行料無料の自動車専用道路「日和佐道路」です。

並行する国道55号線が大雨時に通行止めになる区間であり、急カーブも多かったため、常時通行可能な道路を確保する目的で先行して開業したそうです。
徳島県の阿南市から高知県の安芸市までを結ぶ「阿南安芸自動車道」の一部ですが、現状では前後区間が開通しておらず、9.3kmの孤立した高規格道路になっています。

国土地理院の地図より
この道路が全線開通すると、ますます牟岐線の利用者が減るかもしれないと思いましたが、すでに特急が廃止されているような路線ですし、あまり関係がないかも?
特急どころか快速も走らせていないところを見ると、JR四国は牟岐線に長距離利用者が少ないと判断しているのでしょう。ダイヤを見ても、学生の通学のために走らせている印象です。全線乗り通すのは、DMVに乗りに来る鉄道ファンくらい?
ちなみに長距離利用といえば、大阪(南海なんば)から、こっち(徳島県南部)まで走っている高速バスがあります。一部の便は室戸まで行くというロングラン。高規格道路が全線開通するとバスはかなりの時間短縮になりそうですね。
人手不足が進む昨今、地方では鉄道とバスが競争相手ではなく、協力し合う関係に変化しているようです。JRの乗車券で乗れるバスもその一例です。これは地域の公共交通を維持するために有効な取り組みだと思います。
速さや時間の正確さ、車内の快適さは鉄道の方が上ですが、きめ細かくルートを設定できる点ではバスが勝っています。それぞれの利点を上手に活かして役割分担をしてほしいものです。
ただ、最終的にはバスに一本化されるような気がして、鉄道好きの筆者としては心配ですね。
薬王寺が有名な日和佐駅へ
トンネルで山を抜けて北河内駅に到着。

このあたりから、やや開けた車窓風景になります。


少し走ると日和佐駅に到着。

牟岐線の阿南以南においては比較的規模が大きく、利用者も多めの駅です。


また、日和佐駅は、四国八十八箇所の第23番札所、薬王寺の最寄り駅となっています(徒歩10分)
薬王寺は厄除けの寺として有名で、正月三が日は約15万人の初詣客で大いに賑わい、臨時特急「やくおうじ」が運行されます。(2026年は徳島~牟岐を1日1往復×3日間)
今回は下車しなかったので、以前訪れた際の写真を載せておきます。

2025年1月撮影

2025年1月撮影
薬王寺には、1円硬貨を落としながら階段を登って厄落としするという珍しい風習があります。

日和佐へは、薬王寺参拝のため車で何度も訪れていますが、鉄道で来るとだいぶ印象が違いました。牟岐線の駅や線路が少し奥まったところにあるせいか、国道側から見た風景とのギャップがあります。
もっと賑やかな印象だったのですけど、列車の中からだと、少し寂しい感じに見えます。
車社会化が進んだ現代では、国道に沿って店舗や公共施設が建てられる一方、線路沿いにあるのは昔栄えていた商店街や住宅地だからかもしれません。
まあ、単純に天気や時間帯の問題かもしれませんが。
次の写真は、薬王寺の最上部にある瑜祇塔(ゆぎとう)の近くから撮影したもので、牟岐線の線路が画面左から右に通っているのが見えます。

2025年1月撮影
川の手前、建物の間で地面が少し高くなっているところが線路です。なお、国道は写真の範囲よりさらに手前を左右に通っています。
日和佐駅の隣には道の駅があり、線路と国道の間に広い駐車場が設けられています。駅のすぐ近くには、「ドラッグセイムス」もありますね。

「ドラッグセイムス」は四国を旅しているとよく見かけるイメージですが、徳島にはまだ5店舗(25年12月現在)しかないみたいです。高知と松山に多く、それぞれ30店舗と21店舗。香川には店舗がありません。
個人的には四国のイメージが強いのですが、実際には関東を中心に展開しているチェーン店だそうです。
こういう立地の店舗は鉄道、自動車どちらの客も利用できます。徳島南部は山と海に挟まれ平地が狭く、国道と線路が近い所を通っています。そのおかげで、お店が郊外に行ってしまい駅周辺や昔からの町が寂れる現象が起こりづらいのはいいですね。
ただ、日中は列車が2時間に1本なので、鉄道で買い物に行くのは難しいそうです。やっぱり、もう少し本数がほしい。できれば特急も復活してほしい。でも、住民はみんな車に乗るからいらないのかなぁ……。
ところで、由岐駅に続き日和佐駅でもしばらく止まりました。8分間の停車です。ここは大き目の駅なので時間調整かな?と思っていたら、警報が鳴って反対列車が来ました。単純に行き違い待ちだったようです。

徳島行きの1500形2両編成でした。牟岐線の末端に近い区間でも、朝は2両で走らせてくれるのですね。転換クロスシート搭載で乗り心地がよさそう。

今乗っている1000形も嫌いではないですが、長距離乗るなら転換クロスの1500形に乗りたかった気がします。
牟岐線末端区間を進む
列車は7:31に日和佐駅を出発。さらに南へ進み、山河内(やまがわち)駅、辺川(へがわ)駅と止まっていきます。
このあたりは、ほとんど森の中かトンネルの中で、開けた景色は見づらいです。車窓はずっと緑色。線路ギリギリまで植物が茂っています。

この区間に関しては、鉄道よりバスや自家用車のほうが景色を楽しめるかもしれません。線路と国道は近くを通っているものの、牟岐線は単線で必要なスペースが少ないからか、森みたいなところを走ります。自然に溶け込んでいる分、視界が良くありません。
開けた車窓は貴重です。

7:48、牟岐駅に到着。線路がたくさんあって広い。

牟岐線の名前の由来にもなるくらいの主要駅です。1973年まではここが牟岐線の終点でした。

この先はさらに列車本数が減りますが、朝夕はまあ、ちゃんと走らせているようです。JR四国の良心を感じます。
せっかくなので、15年前(2010年)に訪れた時の写真を載せておきます。天気がいいと印象が違いますね。

2010年3月撮影
15年前はこのキハ40系に乗って徳島からやってきました。
キハ40系はボックスシート窓側の足元に出っ張りがあって狭いし、JR四国所属の車両はエンジン未換装なので加速が悪く遅いです。でも、これぞ国鉄型という無骨な雰囲気を漂わせていて最高にかっこいい。
新型ハイブリッド気動車(3600系)によって、近いうちに置き換えられる可能性が高いので乗れるうちに乗りたいですね。
なお、今乗っている阿波海南行き普通列車は、次の写真のむろとがいるホームに停車しています。

2010年3月撮影
7:51、牟岐駅を出発。天気が悪いせいもありますが、最果て感がすごいです。ところどころ見える町並みも昭和な雰囲気です。

相変わらず車窓は天然の緑のカーテンでほとんど海は見えません。天気が悪いせいで景色に華やかさがないですし、さみしい感じですねぇ……。なんだか、ずいぶん遠くへ来てしまったなぁ…という気分になります。
この徳島県南部から高知県の室戸へ至る地域は、弘法大師・空海が修行に訪れた時代にはまさに辺境の地だったらしい。鉄道がなかったのはもちろん、道らしき道も整備されておらず、厳しい自然がむき出しの状態だったようです。
阿波海南でDMVと対面
牟岐駅を出て10分少々、ついに終点の阿波海南駅に到着しました。

牟岐駅あたりからたくさん乗ってきた、野球部らしき格好の人たちは、この駅の近くにある海部高校の生徒だったようです。
徳島からここまで体感ではかなり長かったですが、実際の所要時間は約2時間20分。最速「のぞみ」が東京を出て新大阪に着くまでの時間と同じくらいですね。ほぼ走りっぱなしの新幹線と、各駅に止まる普通列車を比較するのはナンセンスかもしれませんが……。
牟岐線はここでおしまいで、線路も行き止まりになっています。

かつては阿佐海岸鉄道への直通運転が行われていましたが、DMV導入時に線路が切り離されました(※以前は1駅先の海部駅までが牟岐線)
列車を下りるとちょうど甲浦方面からDMVがやってきました。

バスモードにチェンジして、阿波海南バス停へ入ります。

これは「阿波海南文化村」行きで、次の目的地である「海の駅東洋町」とは逆方向へ行く便です。

文化村は展示が面白そうなので行ってみたかったのですが、時間的に厳しいため今回はパスします。
ここまで乗ってきた牟岐線の車両を見ると、幕回しで「安芸」行きに……

……というのは冗談で、幕が回っている途中を撮影しただけです。実際は徳島方面に折り返す「穴吹」行きです。
行き先に安芸が入っているのは、この形式の車両が、土讃線からごめん・なはり線への直通運転で使用されることがあるからです。ただ、もし阿佐線が建設中止されず、全線開業していたら、室戸経由の安芸行きもあったかもしれません。
今回はここまで。次回はDMVに乗って「海の駅東洋町」に行ってから、高知東部交通の路線バスで「室戸世界ジオパークセンター」へ。自転車をレンタルして「むろと廃校水族館」へ行きます。
